ほんのよこみち なブログ

元不登校の高校生と、ひきこもり→就労準備中の子を持つシングルマザーが、このくにで生きることを考えながら、本と好きなことを語ります。

『マッドジャーマンズ ドイツ移民物語』は、美術的にも文学的にも歴史学的にも、非常に深い本です。

ほんのよこみちです。

先日、浅草・田原町の本屋さん、リーディン・ライティンさんで買いました。

 

マッドジャーマンズ  ドイツ移民物語

マッドジャーマンズ ドイツ移民物語

 

 

帯の推薦文を多和田葉子さんが書かれているので、それで手に取った多和田さんファンの性……。

でも、出会えて良かった、と思える本でした。

(以下、ネタバレをふんでいたら、ごめんなさい。先にお詫びいたします。)

 

 

概要

この本には、モザンビークから旧東ドイツに出稼ぎに来ていた若者たちの、青春と苦難と差別と終わらない闘いの物語が、綴られています。

コミックという形式ですが、日本のコミックとは全く違う味の作品で、絵本というか、絵画というか、別の方向の芸術性を感じました。

登場するのは、物静かな青年ジョゼ、チャラ男のバジリオ、努力家で賢い女性アナベラ。

この架空の3人を語り部として登場させることで、当時の移民たちの等身大の姿を、描き出してくれています。

 

コミックの芸術性

私がまず目を惹かれたのが、絵の表現の芸術性でした。

日本のコミックを読みなれていると、この作品のコマ割りが少々単調に感じられるかもしれません。

そのせいで、ちょっと上から目線になってしまうというか、どうなんだろう? という予測不能な感じはありました。

しかし読み進めると、私が思い描いていたコミックの枠を飛び越えるような、ダイナミックな表現で。

この物語を描きたい! という熱意を感じました。

 

登場人物たちの物語の力強さ

3人の語り部たちは、著者ビルギット・ヴァイエさんが、取材をもとにつくりだした、架空の人物です。

しかし、実在していて、すぐ傍で語ってくれているような、力強さがありました。

実は私、旧東ドイツの晩期に、モザンビークから若者たちが移民として働きに来ていたということを、知りませんでした。

そしてその若者たちの人生が、国家に搾取され、ドイツ統一によって暗転し、その後も苦難にまみれたものだということも。

彼ら彼女らは、希望を持ってドイツに渡った。

国に残れば、内戦が待っていた。

働いても、賃金の半分以上を国家にピンハネされた。

差別され、悪意と暴力にもさらされた。

幸せを願って、それぞれ一生懸命生きているだけなのに!

 

多分、日本に来てくれている技能実習生の方も、同じような物語の中に生きているんだな、と思ってしまいました。

彼ら彼女らを、都合のいい働き手としか考えていない国。

積極的に加担していないとしても、単に批判をするだけでいいのか、いいわけないんだよねえ。

個人の力はちっぽけですが、自分事として考えることだけは忘れちゃいけない。

自分と同じように、誰かも生きているわけですから。

 

女性として生きるということ

私がこの本のキャラクターで特に注目したのが、女性のアナベラさんです。

彼女は男性陣と違い、ドイツに来るまでの人生が、既に過酷なものでした。

女性だから。

でも、彼女は様々な困難にも負けず、懸命に生きて、勉強して、人生を掴みます。

彼女のような強さが欲しい、そう思えるような、魅力的な登場人物です。

苦難が多ければ多いほど、人は強くなれるのでしょうか。

アナベラさんのことを考えていると、ふと『置かれた場所で咲きなさい』の渡辺和子さんを思い出しました。

 嫌だ嫌だと思っていても、女性や有色人種に対する差別・暴力はなくならないし、自分が賢くなってうまく立ち回らなければ、道は開けない。

「置かれた場所で咲く」というのは、隷属に甘んじることではなく、強くしなやかに生きることだったんだな、と気がつきました。

 

生きるって何なのか

この本を読んで考えたのが、生きるって何?

傷つきたくない。

幸せになりたい。

それは、みんなが願うことです。

なのに、誰も幸せにならないような社会ができあがっていく。

傷つけ、傷つけられ、奪われ、妬まれ、自分にしか興味のない人ばかりになっていく。

なんだろう。

そんなの、誰も望んでいないはずなのに。

誰もが尊重され、学ぶ権利を得、働いて正当な報酬を得られればいいのに。

その理想が絵空事でしかなかったのが、東側諸国の崩壊かもしれませんが。

 

それでも、生きるためには学び続けることが必要だと、強く感じました。

学んだとしても、結果が出ないかもしれない。

学んだことが、役に立たないかもしれない。

弱音を吐く暇があったら、なりたい自分を目指して、学び続けること。

そうすれば、学ばなかった自分とは違う景色が見られるかもしれないのですから。

故郷を失ったとしても、異邦人でしかない自分に孤独を感じても。

前に進み続けなさい。

そう、背中を押されている気がしました。

 

この本は、本当に良い本です。

読むことができて、世界が広がりました。

ありがとうございました。