ほんのよこみち なブログ

元不登校の高校生と、ひきこもり→就労準備中の子を持つシングルマザーが、このくにで生きることを考えながら、本と好きなことを語ります。

吉川英治『三国志』(1)から学ぶ、劉備も最初は苦労しかしていない。

 ほんのよこみちです。

10年ぶりくらいに、吉川『三国志』を読み返し始めています。

 まあ、私のはこれ⤴じゃなくて、講談社文庫版で、しかも昭和58年12月20日第8刷とかいう古書なんですけどね。

なんせ、バーコードもついていないもんね。消費税の表記もないもんね。

変色したり焼けたり、いろいろ年月を経ている本だけに、愛着はあります。

愛着はあるけれど、10年も経つと、結構詳細を忘れていたりするので、ちょっとネタばれを踏んだ新規ファン、のノリで楽しめるんです。

加齢もいいな、と思うのは、こういうときですね。

 

1巻は、本当に序盤なので、劉備関羽張飛曹操などのメインキャラも、皆若いです。

なので、日本人一番人気の孔明さん(なぜかこの人だけ字……)は、出てきません。

初読の時は「孔明、出て来ないのか~」と思って、読んでてえらく長く感じた記憶があります。

でも、面白いんですよ。文章もうまいし。さすが吉川英治

で、今回、あらためて気づいた面白さなど、感想は次のとおりです。(ネタバレありますので、ご了承下さい)

 

 

張飛が豪快すぎる。

劉備と兄弟杯を交わした義理の弟・張飛さん。

強くて、酒癖も悪くて、部下には優しいけど上役とはよく衝突する、まあそんな愛すべきキャラの張飛ですけどね。

酒癖の悪さ、ハンパなく描かれています。

どこの世界に、生きた鶏を捕まえて、引き裂いて、生肉にかぶりつく豪傑があろうか?

短絡的に、門番殺して城門によじ登ったりとか、どこぞの猪武者でもやらないような豪快ぶりです。

絶対、出会いたくない人ですが、文章で読むには面白兄ちゃんなので。

張飛が次に何をやらかすか、楽しみながら読んでたりします(^_^;)

 

曹操がうっかりすぎる。

乱世の奸雄・曹操さんです。

個人的には、怖いけどキャラの格を認めざるを得ない、英雄ですよね。

でも、1巻の彼は、まだまだ青二才なので、うっかり八兵衛もびっくりの、うっかりぶりです。

うっかり○○を暗殺し損ねるとか。

うっかり○○一族を殺してしまうとか。

うっかり突出して敵の策にはまり、散々な目に合うとか。

いやもう、うっかりしすぎでしょ。

それで死なずにいるんだから、すごいよ君は。

まあでも、このうっかりから学習している様は、さすが乱世の奸雄。

伊達に「パパ、なんとかして」なんておねだりしてないですね(^▽^;)

 

純粋すぎて苦労しかしていない劉備は、現代の若者にも通じる。

そして劉備さんですよ。

その純粋キャラゆえに(?)あちこちで主人公扱いされている彼ですが、漢帝室の末裔とかなんとか言いつつも無位無官なので、苦労しかしていません。

義弟である関羽張飛の活躍もあって、戦で実績を残しても、浪人扱い。

その人の良さから、縁故で何とか役職をもらっても、監察官に賄賂を贈るような芸当ができないから、危うく重罪人に仕立て上げられそうになる。

ホント、劉備にとって生きづらい世の中だったろうと思います。

真っ正直なので、短期間ではありますが、任地で善政をしいていましたしね。

この、善人で能力もあるのに、名家の生まれでないが故に苦労する若者って、なんか現代日本にもいますよね。

家柄とか関係ないじゃん? という意見もあるでしょうが、劉備んちみたいな貧乏な家に生まれると、チャンスを手に出来なかったりしますよね、今の時代も。

でも、上役に認められなかったり、褒美を一切もらえなかったり、部下を労うことができなかったとしても、へこたれない。

何年も結果が出なかったとしても、へこたれないで初心を貫く。

この劉備の姿は、見習うべきものではないかと思います。

 

我々は、すぐに結果を求めてしまい、結果が見えなければすぐに諦めてしまいます。

それがプラスに働くこともあるでしょう。

でも、そうしてどれもこれもすぐ諦めたら、自分の中にはいったい何が残っている残っているのか。

自分がこれと思った志は、最初から上手くいかなくても、簡単に手放さず、あれこれ試行錯誤しながら挑戦してみようよ。

 

例えば劉備の志は、辛苦にあえぐ民衆を救う、ということですから、諦めることは、これまでの信頼を損なうことに直結します。

まあ、そういいつつも、今後は生き残りをかけた戦いに明け暮れるのでしょうが、善政を敷きたければ天下を取るしかないと考えれば、そうなりますわな。

黄巾党の乱のように、マフィアまがいの集団があちこちで猛威を振るっているならともかく、権力闘争の戦ってどうよ、とは思いますけどね。

まあ、前門の虎後門の狼とも言います。あちらの悪党が倒されたら、こちらで暗躍する輩がいる。

人生は思うようにはいきません。

でも、そのときできることを精一杯やって、人様のためになることをやって、情に厚く、義を重んじ、おのれに偽りなく生きていく。

 

1800年前の昔ですから、そういう劉備の人柄は直接会った人にしか伝わりませんが、現代はネットを通じてあまねく伝わります。

逆に言えば、曹操のうっかりブラックな部分も、あっという間に流布されてしまうわけですから、現代だったら、彼はヒールなキャラを背負い続ける苦労を強いられたでしょうね。

 

現代人は大変です。

でも、まだなんとか、忖度を強要してくる権力者の気分次第で生命の危険が迫るような、そういう社会に堕ちきらないところにいますから。

三国志』を読んでると、ホント人の命が軽いので、他者の命を数字で考えるような、そんな社会にしちゃいけないと思うわけです。

読んでて、武将や官僚の名前が次々出てきますけど、覚えるどころか、読み方を確認しているうちにばっさり殺されたりするもんなあ。

そんな武将もですけど、その武将に従う名もなき兵士ひとりひとりにも、人生があったんですよね。

きれいごとではなく、他者の命を簡単に奪ってはいけません。

それは、人類が社会を形成する上での大前提ですから。

前提を失わない社会をつくる一員でありたいと、願うのでした。

 

ありがとうございました。