ほんのよこみち なブログ

元不登校の高校生と、ひきこもり→就労準備中の子を持つシングルマザーが、このくにで生きることを考えながら、本と好きなことを語ります。

『八九六四』を読んでから、あの頃のことをずっと考えている。

 ほんのよこみちです。

八九六四 「天安門事件」は再び起きるか』を読んでから、ずっとあの頃のことを考えています。

 

八九六四 「天安門事件」は再び起きるか

八九六四 「天安門事件」は再び起きるか

  • 作者:安田 峰俊
  • 発売日: 2018/05/18
  • メディア: 単行本
 

 

あのとき、天安門にいた若者たちの声が、ここにある

この本には、あのとき天安門広場にいた人たち、直前や直後に行った人たちなど、1989年6月4日のあの時代に生きた人たちの声が、あります。

若い人たちには、歴史の教科書で見た程度かもしれない、天安門事件

 

でもこの本を読むと、ホントに普通の学生たちが、半ばノリで突き進んでたんだなっていうのが、よくわかります。

と言うと、酷なようですけど。

でも、今ほどピリピリした時代ではなかったのも、事実。

経済的には、西側諸国に後れを取っていた頃ではありましたが、人民は一様に豊かではないけど食える……という状況でしたからね。

ましてや大学生は、エリート予備軍。

理想と元気にあふれている。

 

私は当時二十歳で、もろに天安門同世代なので、読みながらあの時代を思い出しました。

あの頃、中国だけじゃない、韓国でも台湾でも民主化運動があったように記憶しています。

日本人だけ、こんなのほほんとしてていいの? と焦ったんですよね。

 

当時、日本では消費税導入がありました。

それまで贅沢品にかけられていた物品税を廃止、所得税累進課税も緩和。

税の徴収対象が、金持ちから庶民に移行し始めた、その時代です。

大金持ちと小学生が同じ税率って、ちょっと子どもがかわいそうじゃない? って思ったんですけどね。

私自身、親と意見対立して経済的余裕がなかったので、3%だってきつかったし。

でも、デモをしようとか思わなかったんですよね。

消費税は、そのまま現在に至ります。

 

天安門の失敗した理由

天安門事件の失敗した理由についても、この本で向きあうことができます。

  • 学生たちにプランもノウハウもなかった。
  • 本気で政権を打倒するつもりはなかった。
  • デモの意味がわからないまま広がり、大衆がついてこれなかった。

等々。

 

当時の大学生と言えば、エリート予備軍。

そもそも中国は、科挙合格者が長きにわたって政治を指導してきたお国柄ですから。

文化大革命の時代を除けば、高学歴・知識人が圧倒的に強い社会……というのを、再認識いたしました。

 

だから、非知識人層との間には、壁がある。

その格差の壁が、デモの失敗にもつながった。

 

エリート予備軍とはいえ、学生たちは社会のしがらみに囚われない、ある意味自由でいられる立場。

だから、社会人エリート層からは「甘い」という目で見られた。

人脈を繋げられなかったのも、敗因の一つ。

 

でも、それらは結果論で、当時の学生たちを批判する資格は、当時何もしなかった私にはありません。

すごいね、と思った。

中国人は行動力あるなあ、と思った。

日本も、政治の潮目が変わる予感がしてた。

でも何もせずに、テレビの報道だけ見てた。

天安門の学生たちに仮に非があったとしても、戦車で武力弾圧するのは駄目です。

 

天安門事件がその後の世界史を変えたのは、周知の事実

天安門のデモは失敗し、今も共産党の独裁体制が中国では続いていますが、あれ以降、世界史が変わっていったのは、周知の事実ですよね。

ベルリンの壁崩壊。

東側諸国の民主化

ソ連の解体。

 

湾岸戦争で、多国籍軍なるものができたとき、夢かと思いましたもん。

東側と西側の国々が、共に戦っているなんて!

(……まあ、10数年後のイラク戦争につながったりもするんですけどね。)

 

だから、あの事件は決して無駄じゃなかったと思うんですが。

でも、亡くなられた命は、戻りませんし。

人生を狂わせた中国人が多くいることも、あらためて知りました。

 

世界は民主化したのに、当の中国は民主化できていない。

それでも世界第二位の経済大国になって、30年前に夢見たような豊かな暮らしは手に入れている(人もいる)。

自由はないが、豊かさはある(ただし、エリート層のみ)。

非エリート層は、貧しい生活に耐えながら、政府にも追われる羽目になる。

 

なんか、納得できません。

自分の国が少しでも良くなったらいい、と、そう思っただけなのに。

うまく立ち回って、権力者の側についた人もいれば、つかまってぼこぼこにされた人もいる。

自分の身を守る知識と教養と人脈のある人だけが、豊かで安全な生活を送ることができて、それらのない人は、下手をすれば獄死。

天安門がなければ、ここまで締め付けが強くならなかったかもしれない、なんて!

 

国家権力維持にために必要なのは、国民の豊かな生活だけなのか

中国で同じようなデモは、もはや起こせないかもしれません。

なにしろ豊かになったので。

あの頃みたいに、民主化して豊かな生活を……なんてのはファンタジーだって、わかってしまったので。

 

東西ドイツ統一による格差は、やっぱり旧東側諸国の人たちには強烈みたいですね。

豊かになれると思ったら、2級市民扱いの差別と失業が待っていた。

それまでの知識や経験は、西側の世界に出たら、なんの役にも立たなかった。

自尊心の崩壊です。

 

そんな失敗に陥らずに、豊かな生活が手に入ったら、現状肯定したくなるのも仕方がないのかもしれません。

経済的豊かさと、国家に殺されない(ように自己防衛した上での)安全性。

民主主義を知らないまま育ったら、我々もそうなるのかもしれません。

なぜなら。

「世界で最も共産主義の成功した国」らしいですからね、当時の日本は。

 

でも、香港のデモや、台湾のひまわり学生運動を見てもわかるように、民主主義ってそんなもんじゃないんですよね。

国家に殺されない、なんて当たり前のことだし。

自己防衛しなきゃならない、なんて、安全でもなんでもないし。

 

やばいですよね。

民主主義について、教科書以上に自分で学んでいかないと!

興味がない、なんて言ってる向こう側に、未来の姿があるわけですから。

 

やっぱり名君に支配されるのはラク、だと思いたがる人間

日本人もそうですけど、苦労して民主主義を手に入れていない国、もしくは民主主義を知らない国の人たちって、名君に支配されるラクさから脱却しづらいのかな、と思います。

いや、だって、名君に支配されるって、ラクなことこの上ないんですよ。

考えることを全部名君がやってくれるから。

名君の指示どおりに動けばいいし、その指示が間違ってるとは思えない。

自分が考えるのは、半径2メートルくらいのことでいい。

奴隷根性ってやつですけどね。

 

今、選択したがらない若者が多いっていうのも、結構危険だなと思うんです。

失敗したくないから、自分で選択したくない。

流れてきた情報を消費するだけの、器でいたい。

だから、いい情報を流してほしい。

 

それは、独裁者のいいカモですが、大丈夫ですか?

 

もう一回、地獄を見ないと駄目なんですかね。

1945年までの破滅を、振り返りましょうよ、せっかく祖先の残してくれた教材があるんですから。

反面教師として。

 

中国の人たちは、もう何千年も、支配者がいるのが当たり前で来てしまったので、その辺の諦めは、我々より強固なんだと思います。

支配者はどうしたっている。

ならば、その支配者とうまく折り合いをつけて、より多く旨みを得た方がいい。

たくましい根性だと思います。

 

でも、私はそれに倣うことができない。

どんな名君も、名君で居続けることは難しいし、名君の後継者が名君であり続けることは、さらに難しい。

命が奪われてしまったら、すべておしまいだから。

自由と人権は守っていかないと。

 

というようなことを、この一週間考えていました。

考えたからって、どうにかなるものでもないんですけど、考えずにはいられない。

見なかったふりは、もうできません。

 

天安門事件を知らない若い方にも、考えていただけたら幸いです。

ありがとうございました。m(_ _)m