G・ガルシア=マルケスの『ぼくはスピーチをするために来たのではありません』を読んで考える、日本の未来。
ほんのよこみちです。
ガブリエル・ガルシア=マルケスの『ぼくはスピーチをするために来たのではありません』というスピーチ集を読みました。
- この世には、能力よりも自己評価の低い人がいる。
- ラテンアメリカの未来まで考えている作家。
- 日常に詩はあるか?
- 熱量にあふれた言葉は、人の心を動かす。
- 翻訳者・木村榮一さんの訳者あとがきが面白い!
- おわりに
この世には、能力よりも自己評価の低い人がいる。
この逃げ腰のタイトル(『ぼくはスピーチをするために来たのではありません』)からもわかる通り、ガルシア=マルケスさんはスピーチがとても苦手だと思っていたようです。
事実、1970年にベネズエラで行われた講演でも、冒頭に延々と逃げ口上をやらかしてくれてます。
でも。
決してスピーチが下手なわけじゃないんですよね。
というか、全く手を抜いていない、全力投球なので、とにかく内容が濃い。
スピーチ原稿なのに、論文を読んでる感じで、面白い。
いるんですよね~、能力よりも自己評価の低い作家って。
『変身』でおなじみのカフカも、自己評価の低い人でしたが。
保険屋さん時代の報告書が『カフカ ポケットマスターピース 01 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)』に掲載されてましたけどね、すごくわかりやすい報告書だったんですよ。
こんな書類書けるなんて、やっぱり有能じゃんって思ったんですけど、当のカフカは「僕は無能だ」って思っていたみたいで、仕事も辞めてしまって。
まあ、カフカの場合は父親が毒親で、自尊心をへし折る日々だったようなので、可哀想というか、これじゃ仕方ないよなぁというか。
現代でも、自己評価で悩んでいる人、多いですよね。
だいたい周囲の凄すぎる誰かと自分を比べて、自分なんてダメだ……って思っちゃうんですよね。
引っ込んでいる間に、全力で挑戦したら、結構やれたりするんですよねぇ。
というのを、ガルシア=マルケスを見ていたら思ってしまうので、全力出さずにへこたれてる場合じゃないですね。
ラテンアメリカの未来まで考えている作家。
日本では、作家が政治的な発言をすることに難色を示す人もいますが、ガルシア=マルケスはどんどん話しています。
母国・コロンビアのみならず、広くラテンアメリカの未来についても、考えておられたようです。
そのスピーチ内容が、どんどん貧乏になっていく我らが日本にも、身近な問題に感じられて、これはちょっとよそ事ではないな、と。
ラテンアメリカのように、スペイン語という共通言語でつながっているわけではない、アジアの中の日本。
ガルシア=マルケスが、ラテンアメリカの未来を支えるのは文化だ、と言っても、スペイン語という共通項で、そもそもの地力が日本よりあるわけですよね。
日本も、ITでは中国にもインドにも後れを取っているし、文化にすがるしかないかなとも思うんですが、所詮はしがない辺境言語。
翻訳という技術に、もっと価値をおいてもいいと思うんですが、なんかイマイチ生ぬるくて。
個の力なんてたかが知れてるって、ネットの海を見ればわかるように、国もひきこもってちゃどうにもならないと思うんですけど。
文化の輸出入。
もっと本腰入れないと……って、この本を読んでいて痛感しました。
日常に詩はあるか?
私は詩も好きなので、ガルシア=マルケスが詩について語っている箇所は、大まかにですけどメモしてます。
その上で感じるのが、スペイン語の日常に詩があるのかい? ということなんですよ。
少なくとも、ガルシア=マルケスはそう言っています。
じゃあ日本語は?
詩人の方の日常には、詩があるのかもしれません。
でも、普通の人の日常会話に、詩的な表現はなかなか入ってきませんよねえ。
逆に、入っていたらからかわれたり。
特に東京にいると、会話の中に笑いもないし、無味乾燥な感じがします。
結構、しんどい。
で、詩を書くと「ポエム?(笑)」って反応が襲ってくるし。
つまんない世の中になってしまいましたねえ。
日常に詩というのは、日常に笑いと同様に、日本文化でこの国を守るための基礎力なんじゃないかと、ちょっと大きく出てしまったな、はっはっはっはっ……(^▽^;)
私は、ペンは剣よりも強しとマジで思っているので、暴力ではない国力をつけるためには、どんなことでもした方がいいと思っています。
それと詩が好きというのとは、本来結びつくものじゃなかったんだけどな、なんか一周回ってしまったよ、はい。
詩の文化力がすごい、とかいうのではなくて、教養として身につけていないと、ちょっと大変かもな、という話です。
一芸に秀でるという生き方は、確かにアリだけど、どこまでが一芸なんだろう? というのもありますし。
まあ、洒落た言葉の上げ足を取るな、ということです。はい。
熱量にあふれた言葉は、人の心を動かす。
上記のようなことを、この本を読んで考えたわけですが、読む前は、ほんっとぜんっぜん、こんなこと考えていなかったんですよ。
ガブリエル・ガルシア=マルケス氏の、熱意あふれるスピーチ原稿に、圧倒されました。
氏の政治への関わり方を、100%賛同するわけではないんですけどね。
ちょっと、政治権力者と距離が近過ぎない? とは思うし。
やり方はともあれ、その熱意は、参考にすべき部分があると思います。
熱量にあふれた言葉は、人の気持ちを揺さぶる(かもしれない)。
私は揺さぶられましたけどね、他の方はどうだろう。
でも私も、自分にできる関わり方で、この国の未来を考えていこうと思うようになりました。
翻訳者・木村榮一さんの訳者あとがきが面白い!
ということで、翻訳者さんのお名前を出していなかったですね、すみません。
この本の中で、一番ごっつい章が、木村榮一さんの訳者あとがきだったりします。
これが、面白い。
ガブリエル・ガルシア=マルケスの人生が、よくまとめられています。
わかりやすい。
ついつい本編より先に読みたくなるパターンですね。
仮に、本編を途中で挫折したとしても、この訳者あとがきはオススメです。
……って、な~んて⤴不吉なことを言うんだ~(;^ω^)
おわりに
この本、ガブリエル・ガルシア=マルケスに興味がなかったら、絶対読んでなかったと思います。
また、あくまで図書館で借りられたから読んだだけで、本屋さんで見かけても、まずは同じ著者の小説本の方に手を伸ばして、スピーチ集なんて、後回しにしてたと思います。
浅はかですね。
そういう普段は手に取らないような本の中に、大いなる学びがあったりするのに。
完敗です。
ぜひ、図書館で見かけたら、手に取ってお確かめください。
ありがとうございました。m(_ _)m