『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』を観て考えた、人間という生きもの。
ほんのよこみちです。
映画『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』を観てきました。
一度公開された映画の追加版だし、そもそもの映画が良かったので、期待半分、不安半分でした。
全然違う物語に感じる……という映画評も読んでいたので、その新しい物語が、自分の好みと全然違っていたらどうしよう、とか。
この時点で、私は原作のマンガを読んでいませんでした。
理由は、マンガの情報量の多さに、自分の脳の処理能力が追い付いていかない、と思っていたので。
最近、子どもの買う『鬼滅の刃』を読み始めて、ちょっとマンガもいけるかな~となってきたところ……です。
それで、肝心の映画『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』ですよ!
3時間近い長丁場でしたが、すごく面白かったです!
主人公のすずさんと結婚する前に、夫の周作さんと遊女のリンさんが出会っていたというくだりが入ることで、登場人物たちが一気に生命力を帯びてきました。
現実的存在力が上がった……とでもいうんでしょうか。
夫の過去に嫉妬するすずさん、若かりし頃の恋を醜聞とする北條家の人々、水原に嫉妬しつつも、自分にも覚えがあるから強く出られない周作、そんな周作にいら立つすずさん。
実は、最初の『この世界の片隅に』を観たとき、個人的にすずさんに同調することができませんでした。
だって、自分の意見や感情を全部殺して、言われるがままに流されて生きてきただけの女性……みたいに見えたので。
表面上、従って生きているうちに、恨みつらみをどんどん積み重ねていって、晩年にぽろっと毒を吐いたうちの祖母と、すずさんが近い世代だったので、なんかそういう怖さがあったんですね。
敵も作ったし失うものも多かったけど、思うように生きているお姉さんの径子さんの方が、私は好きだし感情移入しやすかったので。
なんですけど、この『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』は、前回削られてしまったすずさんの毒々しい感情がいっぱい入っていて、物語を進める上でのお人形ではない、生きた人間として描かれているので、とても身近な女性として好感が持てました。
すずさんだけじゃない、周作さんも夢物語の男性みたいな描かれ方じゃなくて、ヘタレで自分勝手な男の部分がより鮮明に表れて、当時の結婚ってこんなふうに適当だったんだよなあ……というリアリティを感じました。
うちの祖父母の結婚も、お見合いのとき、男が気に入ったらお茶のおかわりをする、というような取り決めだったみたいですが、「夏で暑かったから、のど乾いてておかわりをした」なんて言ってましたからね、祖父。照れ隠しでしょうけど。
そういう感情を持ったリアルな人間として描くことで、観客もより感情に引きずられるというか、物語にどんどんのめりこんでいってしまうんですね。
おおまかなストーリーはわかっているものの、後半の悲劇が怖くて、ひょっとしてアレは来ないんでは? とか錯覚したり……。
なので、ラストはわかっていたんですけど、前回以上に泣けました。
径子さんの「晴美の去年の服じゃ、小まいかねえ」というシーンで、もう涙腺決壊です。
キャラクターの感情が、渦を巻いてスクリーンから押し寄せてくる。
人間というのは、感情を持った生き物なんだと、今回ものすごく感じました。
感情を出してくれるからこそ、相手を理解できるし、共感できるし、好きになることもできる。
ストーリーの技術で魅了する物語も確かにありますが、等身大の人間というのは、こんなにも魅力的なんだなあと、実感しました。
もちろんすずさんが、いつまでも過去にこだわってネチネチするような女性だったら、絶対好きにはならないし、周作さんが昔の恋を引きずる男だったら、ぶん殴って終わったと思います。
悩んだり苦しんだりもしたけど、それでも日常の小さな幸せに感謝して、前向きに生きていこうとする。
そういう普通の人だからこそ、観客も一喜一憂できるし、作品を楽しむことができる。
そうなんですよね。
これは多分、物語をつくるということだけじゃなく、様々な日常的なことにも、相通じるものがあると思います。
傷つくのが怖くて弱みを見せずにいると、人とのつながりがどんどん希薄になってくとか。
ビジネス文書を冷たいと感じるのも、そういうことですよね。
人間味。
そういうのをもっと感じたくて、原作コミックスも買ってしまいました。
原作は、もっとわかりやすくはっきり言っていて、よりほっとしたというか、安心して読めました。
秘密を中途半端に公開した出来事ではなく、よりオープンな出来事にしているあたり、それでも夫婦でいることを決めたふたりの関係性が、ちょっぴり羨ましくて、やわらかい線と相まって、心暖かくなる作品だと思いました。
それに、軍国主義に染まって思考停止する愚かさを、よりはっきり描いている気がします。
10年前のコミックスですけど、これはいつまでも古びずに読める作品ですね。
ということで、2020年は文学の年にします! とか言いつつ、文学より先にアニメとコミックスの記事になっちゃいましたが(^_^;)
まあそれは表現方法の違いというか、些末事という気がしないでもない。
私は、この作品に出会えて、本当に良かったと思います。
そう思えることを、これからもたくさん増やしていきたいな。
2020年もよろしくお願いします。m(_ _)m