吉川英治『三国志』(5)から気づく、劉備は不本意な人生を歩んでいたのかもしれない。
ほんのよこみちです。
ぼちぼち読んでる吉川『三国志』も5巻まで来ました。
- 三国志名場面集巻!
- 三国時代一の美丈夫・周瑜が出まくり!
- 諸葛亮は、やっぱり持ち上げすぎでしょう。
- 劉備は、本当は英雄なんかになりたくなかったのかもしれない。
- やっぱり曹操はデキる主君だ!
- 長い小説からわかるのは、キャラクター個々の人間性。
三国志名場面集巻!
この巻は、何と言っても赤壁の戦いです。
というか物語としては、趙雲の見せ場である長坂破から、赤壁の戦いを経て、劉備軍が荊州を攻め取るまで……というあたり。
どんなアレンジ版でも、絶対に外せない、名エピソードてんこ盛りな頃ですね。
10年ぶりくらいの再読で、細かいエピソードをぼろぼろ忘れていても、この巻はだいたいおぼえていましたよ。
というくらい、三国志を語る上で欠かせないエピソード集巻なので、最近読み始めたよ~という方も、がんばってここまで読んでください❕
ここまで読めば、いろんなネタについていけるから❕
逆に、この巻のエピソードは有名なものばかりなので、これまで人名や地名が紛らわしくて疲れた……という方も、復習感覚で読めるかもしれません。
そして、戦いの結果がわかっていても、やっぱりハラハラしちゃうんですよね~。
面白い巻です。
三国時代一の美丈夫・周瑜が出まくり!
赤壁の戦いと言えば、なんか孔明が裏で糸を引いて、周瑜を躍らせている……というふうな書き方をされていたりもしますけど。
美丈夫美丈夫と言われたって、小説じゃ顔なんかわからないんだから、どうでもいいじゃん? なんですけど、やっぱり美丈夫と言われた方が読むのは楽しい……って、最早セクハラなんだけどな💦
周瑜の場合、単なる美丈夫ではなく、呉の水軍大都督として魏の水軍を撃った、まあそこですよね。
ただ、やっぱり水軍の人だったのかなあ……と思ってしまうのは、陸上戦の結果が芳しくないこと。
これは呉の軍備が水軍に偏っているように見えることと、呉主・孫権の若さゆえなのかもしれませんが。
そんな孫権を、孫策の親友でもあった周瑜が、一生懸命支えている。
応援したくなる人ですね。(でも、孔明と趙雲の方が好きなんですが)
諸葛亮は、やっぱり持ち上げすぎでしょう。
そして、赤壁の黒幕みたいな描かれ方をよくされる、孔明さんです。
まあ確かに、呉を開戦に引きずり込んだのは、諸葛亮かもしれません。
呉が魏と手を組んだら、もう劉備一派に生き残るすべはないですからね。
でも、すべてを孔明が見通していた……みたいな扱いは、どうですかね?
火攻めにあって落ち延びる曹操軍の行く手に、伏兵をあちこち配置しておいた……というのも、地形と心理を読んだら、別に孔明じゃなくとも、考えられそうな気がしませんかね。
道だって、都市部の街中みたいに、あちこち張り巡らされてるわけじゃないし。
関羽が命令違反をするかもしれない、と先に読んでいたとかいうくだりも、明らかに後世のつけたしという気がします。
あらかじめ読んでいたのなら、もっと別の人員配置にしたと思うので。
少なくとも、もし関羽が撃ち漏らしたとしても、趙雲あたりにリカバリーさせるとか、そういう配置にしたと思うんですよね。
だから、あの指令は孔明のミスだし、孔明も人間だということですよ。
劉備は、本当は英雄なんかになりたくなかったのかもしれない。
なにかを決断するとき、全部孔明に訊いてる……って、主君はどっちだよ、おい。
ここに来るまで、奥さんが二人いた劉備くんも、その二人の奥さんに先立たれて、この巻で新たな伴侶を迎えます。
しかも、親子ほど年の離れた、孫権の妹を!
この呉妹君、気が強く、利発な夫人で、劉備はぞっこんになり、天下のことも部下たちのことも忘れて、呉の屋敷で夫人とラブラブ新婚生活に夢中になるんですよね。
主君にあるまじき行為(~_~;)
というか、実は劉備って、もともとそういう質の人間なのかもしれません。
これまでも、挙兵してちょっと失敗したら、有力な地方の名家のところに転がり込んで、惰眠を貪ること複数回。
そもそも親孝行第一の人で、戦って死ぬことより、はいつくばってでも、生き延びて帰宅することを優先させてたような人ですからね。
母親が「あなたは漢王室の血筋を引くのだから、立ち上がらなければいけません」と背中を押し続けたから、なんとなくその気になっただけで。
本当は、歴史の表舞台に出るとか、好きじゃなかったのかもしれません。
なんでもない、日常の幸せが一番、という人だったのかも。
母親がたきつけなければ、筵折り職人として、天寿を全うしていたんだろうな。
貧乏だけど善良な人というので、つつましいながらも、幸せな生活を送っていたんだろうな。
そう思うと、劉備も彼の部下たちも、すごくかわいそうになってきました。
こんなのを主君と仰がなきゃいけなくて、且つ主君の怠惰まで戒めなきゃいけない、孔明や趙雲の哀しさよ。
そりゃ、蜀って短命だよなあ。
やっぱり曹操はデキる主君だ!
で、結局、曹操の株が上がってしまうわけですよ。
まず一切の迷いがない。
曹操は天下を取って国づくりをする、それしか考えていないふうなので、個人としてより公人として生きてるんですよね。
そりゃ人間だから、間違いもするし、失敗もするし、アウトな部分もある。
でも、筋が通ってるんですよ、やることの。
現実逃避なんてしない。
部下の命を背負う、その重みに気づいている。
デキる男ですよねえ~。
長い小説からわかるのは、キャラクター個々の人間性。
結局、覚悟を決めてる曹操と、ゆらゆら逃げ腰の劉備と、青二才の孫権と、各々キャラクターがつかめてくると、読んでいても面白いです。
本文に書かれていないキャラ心理まで、伝わってきますからね。
そうして読んでいるうちに、キャラクターが自分の悩みを代弁するような行動に出てくれたり。
結構コレ、下手な自己啓発本より、びしばし伝わってきます。
だから、面白い。
『三国志』は、ぜひおすすめしたい作品です。