ほんのよこみち なブログ

元不登校の高校生と、ひきこもり→就労準備中の子を持つシングルマザーが、このくにで生きることを考えながら、本と好きなことを語ります。

双子のライオン堂さんの『めんどくさい本屋』の使い方を、不登校・ひきこもりの母として考えてみた。

 ほんのよこみちです。

赤坂の選書専門の本屋さん・双子のライオン堂さんの店主・竹田さんの本『めんどくさい本屋―100年先まで続ける道 (ミライのパスポ)』を読みました。

 

  

 あらまし

 この本は、著者である竹田さんが、双子のライオン堂の今の活動にいかにたどり着いてきたのか、その遍歴が描かれています。

学生時代に文学に出会い。

いじめから不登校を経験。

ネット古書店を立ち上げたり。

学校に復帰して、大学で文学を学んだり。

就活は、リーマンショックによる内定切り

その後、就職したりバイトをしたりしながら、実店舗の書店運営に漕ぎ出していく。

そんな生き方が記されています。

 

読みながらまず感じたのは、これはこちらがわの本だ~! でした。

こちらがわって、どちらがわだよ?

ハイ、この手の人生経験を語る自己啓発的な本、うちの上の子が高校を辞めた7年前から、いろいろ読んできたんですよ~。

 

不登校・ひきこもりの子を持つ親は、もう藁にもすがる思いで、自営業とかフリーランスで頑張っておられる方の本を、読みまくる時期があるんですね。多分。

大卒新卒入社→正社員で終身雇用、というのが昔の成功体験でしたから。

我が子がそこから外れると、別のすがれる成功体験を探しまくるんです。

 

なので。

この本は、一応若者向けの本ということのようですが、私は親世代向けの本だと思います。

親や若者の指導的立場にある人が読むことで、若者を支えられる本。

 

だからといって、若い人が読んじゃマズイというわけではないんですが、ひとつ注意が必要かも。

育った環境は人それぞれなので、落ち込まないで、ひと呼吸おいて、できることからやってみて下さい。

 

以下、考えたことをつらつらと書かせていただきます。

 

親として読む場合

この本を親として読む場合の注目ポイントは、竹田さんのご両親の寛容さだと思います。

竹田さんの人生は、その選択のことごとくを、ご両親が否定せずに受け止めていらっしゃる、その信頼感の上に形成されているのだと推測します。

 

普通、息子が、それ単独で生計を立てるだけの収益があげられないとわかっている業種に参入したいと言ってきたとき、反対しない親なんていませんって。

男の子で、ましてや結婚を考えた彼女がいて、本屋どころじゃないだろう? って、多くの親が言うはずです。

ちゃんとした会社に就職することを考えなさいって、まず思いますよ、親は。

周囲の母親たちからも、程度の差こそあれ、そういう声は聞きます。

 

でも、そうやって押さえつけていたら、今の竹田さんはいなかったわけですもんね。

ひょっとしたら、不登校時代を乗り越えられなかったかもしれないし。

 

例えば大学で文学を専攻されてますけど、東京の学生さんは、文学部男子って普通なんですかね。

私は田舎もんでバブル世代なので、状況は全然違いますが、地方の男子学生にとって文学部はとても遠い存在だったような気がします。

男子なら、就職を考えて、経済学部か法学部、というような。

うちの田舎(のバブル期)では、男子学生が入学できる文学部って、国立大学しかなかったので、偏差値も高かったし狭き門でした。

就職を考えて、東京や大阪の大学に進学する男子も多かったですが、そういう場合、経済学部とか、あと理系の学部でしたね。

昨今はどうなんだろう。

 

文学部の地位が低下中の世の中ですから、文学部に行くと、のちのち苦労するかもなあって、普通の親は思います。

まして、竹田さんが大学進学されたころって、もう就職氷河期って言われてた頃だし。

「文学部もいいけど、経済学部の方が就職ラクかもよ?」

「公務員試験を考えて、法学部はどう?」

親ってついつい先回りして、そういうレールを敷きたくなるんです、わかります。

 

そういう余計なことを一切しないで、子どもの興味が向くままに学ばせて、経済的に厳しい道でも、その選択を尊重して、なおかつフォローまでしている。

我々親世代が学ぶべきは、竹田さんのご両親のその姿勢ですね。

 

というふうな読み方をしていると、時々反論が聞こえてくるんです。

「同じように子どもに接したのに、うちの子はダメだった」とか。

「もともと能力のあった人の人生だから、普通の人間が真似したってダメなんだ」とか。

 

人間は、工業製品じゃないですからね~。

竹田さんの人生をトレースしたって、それが我が子に合っていなければ、やり方をトレースしたうちに入んないんですよ。

トレースされること自体を嫌がる子もいますし。(うちの第一子だ~)

「母さんがよそで仕入れてきた子育て方法の実験台にすんな」って、よく言われました。

 

そう。

表面的なノウハウじゃなくって。

真似するべきは、魂なんだよ~。

 

ということで、親が子どもを信頼し、子どもの選択をフォローすることこそが、子どもの人生を花開かせる。

親に信頼されている子どもは、他人を信頼することもできますからね。

だから、人柄の良さとなって、竹田さんの周りに人が集まってくる。

 

我が子と言えど、我が子だからこそ、絶対的に信頼するのは、難しいです。

親だって人間だし。

でも、信頼力の結果を見せつけられたら、親自身が変わるしかないですよね~。

子どもの人生の選択は、子ども自身の出した答えが、正解です。

その子に合ったフォローを、その子のペースに合わせて、その子の成長を妨げない程度に、信頼して行う。

親業って、ホント奥が深いです。

 

人生に悩む若者として読む場合

まず、この本に出てくる竹田さんのご両親みたいな親は稀だ! という前提で、読んでほしいと思います。

じゃないと、自分の環境と比べてみたときに、辛くなるから。

 

世界中の親がすごく子どもに対して理解があって、自分の親だけがわからず屋……というわけではありません。

たいていの親は、自分のよく知らない世界(起業)とか、利益の見込み難い職業(本屋)とかには、難色を示します。

 

私も若い頃、古本屋さんをやりたいって思ったけど、親を説得できるだけの事業計画書が書けなかったので、諦めましたもんね。

ほぼ同時期に同じ市内で、蟲文庫さんが事業を始めてらしたので、できる人はできるんだと思いますが。

 

わたしの小さな古本屋 (ちくま文庫)

わたしの小さな古本屋 (ちくま文庫)

  • 作者:田中 美穂
  • 発売日: 2016/09/08
  • メディア: 文庫
 

 

当たり前ですけど、読者は全員、竹田さんじゃありません。

同じようにやってみようとしても、できないこともありますし、家族の協力や金銭面ではばまれることもあるでしょう。

竹田さんの日常はものすごくハードで、体力的に無理って感じる人もいると思います。私もそうです。子どももいるし。

 

でも。

この本が問いかけてくれているのは、「〇〇じゃなきゃダメって、自分の人生を追い込まなくてもいいんじゃない?」ということなんじゃないでしょうか。

 

正社員で働いてないとダメ、とか。

好きなことを目指すなら、それを本職にして食べていけるようにしなきゃダメ、とか。

そんなふうに追い込まなくたって、もっと柔軟な生き方を自分に許したって、いいんじゃない? と。

こんな世の中ですし。

 

個人的な話なんですが、この本を読んでいるとき、我が家の第二子の宿題で「未来への計画書」みたいなのが出まして。

うちの子は不登校経験者で、私立の通学型通信制高校に入り、イラストの勉強ができるコースに所属しているんですが。

でも、本人にイラストレーターを目指す気はなく、画力もそこまでではなく、ただ「同人誌つくりたいなあ」という希望のみで入学したので。

「未来への計画書」、当然他の子はガチなのをつくってくるんだろうなあ、先生もそういうのを期待してるんだろうなあと、びびってたんですよ、本人が。

 

でも、この本を読んで、割り切れました。

収入を得るための仕事と、収入を期待しない絵を描くことと、その2本立てでいきますって計画書を出したって、なんの問題もないじゃん。

その気もないのにイラストレーターへの道を書いたって惨めなだけだし、むしろ現実的。

収入を得るための仕事にしたって、自分に何ができるか、何が向いているか、収入を期待しない仕事との接点を探すのか、全く違うものにして視野を広げる材料にするのか、考えるべきことはいろいろあるわけで。

 

いえ、子どもの宿題に、親が本気になっても仕方ないんですけどね。

方向性を提示することはできるかな、と。

多分、こういう二本立て人生って、学校の先生方も指導しづらいだろうし。

てか「趣味を将来の夢に入れるな」とか言われそうですが。

時代はどんどん変わりますからねえ。

 

今のコロナ禍を経て、もっと社会は変わっていくでしょう。

やっぱり個人経営のお店は大変じゃん、って思う人もいるでしょうし、公務員志向が強まるかもしれないし、日本に見切りをつける人も出てくるでしょう。(でも出国はできない地獄かも……)

どんな選択をしても、自分で選んだ答えが正解。

自分の気持ちに偽りなく、自分が決めた答えが正解だと思います。

 

そして

この本の中の対談を拝読していても思うのですが、やっぱり双子のライオン堂って竹田さんのお人柄なんですよね。

育ちの良さがあふれ出るお人柄。

だから、お客さんだった田中さんや、同業者である松井さんが、運営側に回っておられたりする。

 

結局、近道はないということですかね。

どんなすごい事業アイディアを思いついたとしても、ひとりの人間の能力には限界があって。

誰かに協力を願おうとすれば、それは金銭で解決できることもあるかもしれないけれど。

でも本人の人柄がよくなければ、得られる助力も変わってしまうのが現実。

私も、人柄で損してる社長さんを、もう何人も見てきましたから。

 

今、こういうご時世で、実店舗としてのライオン堂さんにお邪魔したり、イベントに参加される竹田さんを追いかけていくことは、まだまだかなわないです。

本を買うのはネットでもできます。

でも、やっぱり本屋さんで買いたい。

本屋さんがなくなったら困る、と、今回ほど思ったことはありません。

 

コロナが終息したら、また、あちこち本屋さんにいきたいです。

いろんな店主さんにお目にかかって、お店作りを見て……。

そういう日常だったことが、贅沢なこと、になってしまうのかもしれませんが。

本屋さんが100年後も、人々の前に開かれた場所でありますように。

 

ありがとうございました。m(_ _)m

 

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